柔術において、**バックポジション(Back Mount)**ほど相手を絶望させ、自分を有利にするポジションはない
想像してみてほしい。相手は君を見ることができない。手も足も届かない。だが君は、相手の首元に牙を突き立て、いつでも試合を終わらせることができる。これが「王のポジション」と呼ばれる理由だ。
この記事では、「どうやって取るか」「どうやってキープするか」「どうやって極めるか」、そして「どうやって逃げるか」まで、バックコントロールのすべてをシステムとして解説する。
初心者から中級者まで、今日からのスパーリングが変わるヒントを詰め込んだ。さあ、一緒に深淵なるバックの世界へ飛び込もう。
1. なぜバックは最強なのか?(メリットとデメリット)
まずは基本だ。なぜ我々は必死になって背中を追い求めるのか?
バックポジションの概要
基本形はシンプルだ。相手の背後につき、両足のフック(かかと)を相手の内ももに掛け、シートベルトグリップ(たすき掛け)で上半身を固定する。これだけで、君は圧倒的優位に立つ。
メリット(強み)
- 死角からの攻撃:相手は君を見えないため、防御の反応が遅れる。打撃ありのルールなら、一方的に殴れる位置だ 。
- ポイント4点:競技柔術において、マウントと並び最高の評価点(4ポイント)が与えられる 。
- フィジカル差を埋める:相手の強い腕や脚の力を受けにくいため、体格差があってもコントロールしやすい。
デメリット(リスク)
- 逃げられると不利:エスケープされると、ガード(下)やハーフガードになりやすく、トップポジションを失うリスクがある。
- スタミナ消費:相手を背負ったり、しがみつき続けるには、背筋や握力を消耗する。
2. コントロールの極意:「回転」を止めろ!
「バックを取ったのにすぐ逃げられる…」 そんな悩みを持つ人は、「回転」を止められていないことが多い。相手が逃げるためには、必ず体を回転させる必要がある。それを封じるのがバックキープの核心だ。
ダイアゴナル・コントロール(対角線制御)
人間の体は、対角線を固定されると回れなくなる。これを覚えよう 。
- 右肩にシートベルト(腕)
- 左足にフック
このように、「たすき掛け」のイメージで対角線をロックする。これができれば、相手は魔法にかかったように動けなくなる。
習得のコツ シートベルトを組んだら、自分の胸骨を相手の背骨にピタリと密着させよう。「チェスト・トゥ・バック(胸と背中)」だ。隙間があれば、そこに逃げるスペースが生まれる。
足首は組んでいいの?(足首クロスの是非)
初心者がよく言われる「バックで足を組むな(Don’t cross your feet)」。これには理由がある。
- 組んじゃダメな理由:不用意に低い位置で足を組むと、相手に上から足を組まれ、アンクルロック(足首固め)を極められてしまうからだ 。
- 上級者の例外:実は、腰より高い位置や足の付け根で組むならOKだ。むしろ、相手を強く挟み込むためにあえて組む黒帯も多い 。まずは「組まない」を基本にしつつ、慣れてきたら使い分けよう。
3. どうやって背中に回る?(エントリーシステム)
バックを取るルートは無限にあるが、鉄板の入り方を3つ紹介する。
① アームドラッグ(Arm Drag)
立ち技でも寝技でも使える最強のエントリー。 相手の手首と二の腕を持ち、「引くと同時に自分が横へ出る」。相手がバランスを崩した一瞬の隙に、背中へ滑り込む 。
② チェアシット(椅子座り)
相手が亀(四つん這い)になった時の定番。 シートベルトを作り、まるで椅子に座るように相手の横へ滑り込み、上の足をフックする。スムーズさが命だ 。
③ ベリンボロ(Berimbolo)
モダン柔術の代名詞。ダブルガードなどの状態から回転し、相手の尻の下をくぐってバックを奪う。柔軟性は必要だが、決まれば防御不能だ。
4. どっちに倒れる?(ストロングサイド vs ウィークサイド)
バックを取った後、左右どちらに横たわるか。これがその後の展開を大きく左右する 。
ストロングサイド(オーバーフック側が下)
- 特徴:首を抱えている腕が下になる。
- メリット:重力を使って絞め(チョーク)を狙いやすい。相手を固定しやすい。
- デメリット:腕十字などへの連携は少ししにくい。
ウィークサイド(アンダーフック側が下)
- 特徴:脇を差している腕が下になる。
- メリット:腕十字や三角絞めへの移行がスムーズ。
- 最新理論:最近のトップ選手(ジョン・ダナハー門下など)は、「腕を縛りやすい」という理由で、あえてこちらを好む傾向がある 。
結論:初心者は「絞めやすいストロングサイド」を目指し、慣れたら両方使えるようになろう。
5. 逃げ道を塞ぐ「ストレートジャケット・システム」
ただしがみつくだけじゃダメだ。相手を完全に無力化するシステム、それが「ストレートジャケット(拘束衣)」だ 。
- 腕をトラップする:自分の足を使って、相手の防御している腕をまたいで封じる。
- 2対1を作る:相手の腕が一本使えなくなれば、残った首や腕を自分の両手で攻撃できる。
- フィニッシュ:抵抗できない相手の首を、ゆっくりと、確実に狩る。
この手順を踏めば、力任せに絞める必要はなくなる。理詰めのチェックメイトだ。
6. おすすめコンビネーション(フィニッシュ)
バックからの鉄板フィニッシュを3つ提案する。
- リアネイキッドチョーク(RNC)
- 王道にして最強。道着があってもなくても使える。顎の下に腕を滑り込ませたら、頭で相手の後頭部を押して圧力を倍増させよう 。
- ボウアンドアローチョーク(弓矢絞め)
- 道着を着ているならこれ。相手の襟とズボンを持ち、弓を引くように体を反らす。驚くほど少ない力で極まる 。
- 腕十字(アームバー)
- 絞めを嫌がって相手が腕を上げてきたらチャンス。素早く頭をまたぎ、腕十字へ移行する。バックからの美しい連携だ 。

【バックからの絞め6選】
7. ピンチ!バックを取られたら?(エスケープ)
逆にバックを取られた時の生存戦略も知っておこう。「逃げ」の基本は3つだ。
- 首を守る:何よりもまず、首に手が入らないように守る。
- 背中をマットにつける:相手と自分の間に隙間を作り、自分の背中を床につけてしまえば、バックポジションは解消される 。
- 腰をずらす:お尻を横にずらして、回転するスペースを作る。
注意点:焦って暴れると、チョークが食い込む。まずは冷静に、少しずつ「ズレ」を作っていくことが大切だ。
8. レベル別・習得ロードマップ
今の自分の帯色に合わせて、目標を設定してみよう。
白帯(White Belt):まずは「キープ」
- 目標:バックを取ったら3秒キープしてポイントを取る。
- やること:RNCの形を覚える。不用意に足をクロスしない癖をつける。
- マインド:慌てて極めにいかない。まずは落ちないこと。
青帯(Blue Belt):左右の「エスケープ」
- 目標:バックを取られてもパニックにならず、安全にガードに戻す。
- やること:ストロングサイド、ウィークサイド両方からの逃げ方を練習する。ボウアンドアローを武器にする。
紫帯(Purple Belt):「トラップ」と「連携」
- 目標:相手の腕を足で縛る(トラップ)技術を習得する。
- やること:絞めから腕十字、腕十字から三角絞めといった「流れるような連携」を身につける。
まとめ:バックポジションは「信頼」である
バックポジションは、習得すればするほど「最も安全に相手を制圧できる場所」だと気づくだろう。 最初はキープするだけで精一杯かもしれない。振り落とされ、逃げられることもあるだろう。
だが、焦る必要はない。 「胸を合わせる」「対角線をロックする」。この基本を一つずつ積み重ねていけば、いつか君の背中は、相手にとって「絶対の支配領域」となるはずだ。
さあ、次のスパーリングでは、恐れずに相手の背後を狙っていこう!









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