はじめに:なぜ今、ハーフガードなのか?
「ハーフガード=パスガードされる一歩手前」なんて思っていないだろうか? もしそう思っているなら、あなたの柔術ライフはすごく損をしているかもしれない。かつては「ハーフマウント」なんて不名誉な名前で呼ばれていたこのポジションだが、現代柔術においては最強のカウンターポジションへと進化を遂げている 。
トップ選手たちがなぜ、あえて相手に足を絡ませるのか? それはハーフガードが、身体能力に頼らず、知恵と構造で相手をコントロールできるからだ。特に、若くて動きの速い相手に手を焼いている30代、40代の柔術家にとって、これほど頼りになる武器はない。
この記事では、基本のキから黒帯レベルの戦略まで、ハーフガードの魅力を余すところなく伝えていく。読み終わる頃には、きっと道場で試したくてウズウズしているはずだ。
1. ハーフガードの基本と仕組み
ハーフガードとは?
シンプルに言えば、自分の両足で相手の片足を挟んでいる状態のことだ。 クローズドガードが「胴体」を制するのに対し、ハーフガードは「足一本」を制する。ここには大きな構造的メリットがある。それは**「4対1」の法則**だ。
- 自分: 両手+両足(4本)
- 相手: 挟まれた片足(1本)
この数的有利を活かせば、体重差や筋力差をひっくり返すことができる。これがハーフガードの最大の魅力だ 。
歴史が変わった瞬間
昔は「潰されて耐える場所」だったが、ホベルト・ゴルドライやベルナルド・ファリアといったレジェンドたちが「アンダーフック(脇差し)」の重要性を発見してから世界が変わった。「どう守るか」ではなく「どう攻めるか」のシステムへと進化したのだ 。
2. メリット・デメリットを整理しよう
このポジションを使う上で、何が得られ、何がリスクなのかを明確にしておこう。
メリット(ここが最高!)
- 相手のスピードを殺せる:どんなに速い相手も、足を挟まれては走れない。泥仕合(Dogfight)に引きずり込み、自分のペースで戦える 。
- 「オヤジ柔術」の要:柔軟性や瞬発力が落ちてきても、フレームと構造で戦えるため、長く柔術を楽しむための生命線になる 。
- 多彩な攻撃ルート:スイープはもちろん、バックテイク、そして現代グラップリングで必須の足関節技(レッグロック)への入り口にもなる 。
デメリット(ここだけは注意!)
- 枕(クロスフェイス)を取られると地獄:首を抱えられ、背中をマットにつけられると、そこはただの「潰された場所」になる。ここからの脱出は体力を使う 。
- 首への攻撃に近い:相手との距離が近いため、ダースチョークやギロチンチョークを狙われやすい 。
3. これだけは守れ!鉄壁の「3つの黄金律」
ハーフガードで生き残るための、絶対的なルールが3つある。技術以前の「物理法則」だと思ってほしい 。
① 脇を差せ!(アンダーフックの死守)
ハーフガードプレイヤーにとって、アンダーフックは酸素と同じだ。 外側の腕で相手の脇を差すことで、相手の重心を浮かせ、自分が起き上がるための「支点」を作れる。脇を制する者がハーフガードを制する 。
② 首を守れ!(クロスフェイスの拒否)
相手は必ずあなたの首を抱え(枕を取り)に来る。これを許すと背骨がねじられ、力が出なくなる。 内側の腕や膝で「フレーム(つっかえ棒)」を作り、相手の腕が首に巻き付くのを物理的に阻止するんだ。手で押すのではなく、骨格で支えるのがコツだ 。
③ 背中をつけるな!(半身の維持)
背中がべったりマットについた状態(フラット)は、ハーフガードにおける「死」を意味する。 常に下側の腰だけをマットにつけ、肩を浮かせた**「半身」**の状態をキープしよう。ニーシールド(Zガード)を使えば、このスペースを確保しやすくなる 。
4. 今日から使える!鉄板コンビネーション
ハーフガードは待っていても何も起きない。ここからは具体的なアクションプランを紹介する。
エントリー:どうやって入る?
初心者が一番迷うのが「入り方」だ。無理に飛びつく必要はない。
- スタンドから:低い姿勢から片足タックルに行くフリをして、相手が防いだ瞬間に足に絡みつきながら滑り込む。これなら安全に自分の形に持ち込める 。
- 膝立ちから:相手の襟や袖を強く引きながら、相手の股下へスライディングするように入る。「引き込み」こそが最初の攻撃だ 。
攻撃①:オールドスクール・スイープ
ルーカス・レイチが得意とする、ハーフガードの代名詞的スイープ。
- 脇を差して起き上がる:アンダーフックを取り、肘をついて起きる。
- 足をひねる(重要!):自分の下の足で、相手の足首をフックして外側にねじる(トゥー・トルク)。これで相手の膝に強烈なプレッシャーがかかり、ベースが崩れる。
- ドッグファイト:四つん這いになり、そのまま相手を押し込むか、膝をすくって倒す 。
攻撃②:キムラ・トラップからのバックテイク
「腕がらみ」は極めるだけじゃない。最高のポジショニングツールだ。
- グリップを作る:下から相手の手首を掴み、キムラロックのクラッチを組む。
- 相手を回す:極めるフリをすると相手は前転して逃げようとする。
- 背中につく:その回転に合わせて自分もついていき、ガラ空きになった背中(バックマウント)を奪う。失敗してもトップが取れる、リスクの少ない攻めだ 。

【ハーフガードからの攻撃7選】
5. レベル別・習得ロードマップ
帯色に合わせて、今やるべき課題を整理した。焦らず一つずつ積み上げよう 。
白帯:まずは「生存」
派手な技はいらない。まずは**「潰されないこと」**に全集中だ。
- クロスフェイスを防ぐフレームを作る。
- 潰されてもニーシールドを使って半身に戻る。
- 危なくなったらクローズドガードに戻す 。
青帯:技の「実験」
守れるようになったら、自分に合うスタイルを探す時期。
- アンダーフックからのスイープ(オールドスクールなど)を覚える。
- キムラロックや簡単な絞め技を試す。
- ニーシールド(Zガード)での距離感をつかむ 。
紫帯:自分だけの「必勝パターン」
得意技を連携させ、相手を罠にかける。
- 「スイープを防がれたらバックへ」「パスされそうになったらディープハーフへ」というフローチャートを作る。
- 相手のパスガードを利用したカウンターを身につける。
- 足関節(レッグロック)へのエントリーを取り入れる 。
6. 上達のコツと、よくある間違い
上達のコツ(Tips)
- 頭は「5本目の手足」:相手の顎の下に自分の頭を潜り込ませろ。これが最強のフレームになる 。
- ニーシールドの角度:膝が内側に入りすぎると簡単に潰される。脛(すね)の骨を盾のように立てる意識を持とう。
- 待つな、動け:ハーフガードは休憩所じゃない。常に少しずつ腰をずらし、相手のバランスを崩し続ける「能動的な防御」が必要だ 。
初心者がやりがちな「NG行動」
- 疲れて背中をつける:ここから逃げるのは倍の力が必要になる。意地でも半身を保て。
- 相手を抱きしめる:怖くて相手にしがみつくと、逆にパスガードのアシストをしてしまう。フレームで距離を作れ 。
- 足のフックが緩む:上半身に気を取られて足が緩むと、スルッと抜かれて終了だ。
まとめ:ハーフガードは「生涯の友」になる
ハーフガードは、単なる通過点なんかじゃない。 体格差があっても、年齢を重ねても、知恵と技術で戦える奥深いポジションだ。最初は重くて苦しいかもしれない。でも、「脇を差すタイミング」と「重心を崩す感覚」さえ掴めば、そこはあなたにとって一番居心地の良い「要塞」になるはずだ。
さあ、次の練習では勇気を出して、自分からハーフガードに引き込んでみよう。泥臭い攻防(Dogfight)の先に、新しい柔術の景色が待っている。









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