ブラジリアン柔術におけるマウントポジションの完全解剖:初心者から中級者のための包括的・実践的ガイド

◆柔術LIFE&雑記
  1. 序章:柔術における「頂点」への招待
  2. 第1部:マウントの物理学と感覚 ——「重さ」と「バランス」の正体
    1. 1. 「濡れたタオル」の理論:理想的なプレッシャーとは
      1. デッドウェイト(死重)の魔法
      2. イメージトレーニング:「溶岩」と「重い水」
    2. 2. 「サーフィン」の理論:動的なバランス維持
      1. 4点支持のテーブル理論
  3. 第2部:マウントの構造 —— 3つの階層と使い分け
    1. 階層1:ロー・マウント(Low Mount)—— 守備と消耗の要塞
    2. 階層2:ミドル・マウント(Middle Mount)—— 攻防の交差点
    3. 階層3:ハイ・マウント(High Mount)—— 必殺の圏内
    4. 比較表:マウントのバリエーションと特性
  4. 第3部:マウント維持の核心 —— 具体的なドリルとトラブルシューティング
    1. 基本スキル:「泳ぐ(Swimming)」と「剥がす」
    2. 対処法1:強力なブリッジ(ウパ)が来たとき
    3. 対処法2:エビ(エルボーエスケープ)が来たとき
    4. 独習ドリル:バランスボール・マウント
  5. 第4部:攻撃の解剖学 —— ハイ・パーセンテージ(高確率)な極め技
    1. 1. クロスチョーク(十字絞め):柔術の王道
    2. 2. エゼキエルチョーク(袖車絞め):初心者の切り札
    3. 3. アームバー(腕十字固め):ハイマウントからの華
    4. 攻撃成功率の比較(初心者・中級者向け)
  6. 第5部:成長のロードマップ —— 帯ごとの課題と期待値
    1. 白帯(White Belt):サバイバルと基礎構築
    2. 青帯(Blue Belt):コンビネーションと実験
    3. 紫帯(Purple Belt):流動性と精密さ
  7. 第6部:歴史と進化 —— オールドスクール vs ニュースクール
    1. オールドスクール(伝統派):圧殺の美学
    2. ニュースクール(現代派):ジレンマと機動力
  8. 第7部:メンタルゲーム —— マウントにおける心理戦
    1. 1. 「失うこと」への恐怖を捨てる
    2. 2. 相手のパニックを利用する(クッキング)
    3. 3. 呼吸のコントロール
  9. 結論:マットの上で対話を楽しもう

序章:柔術における「頂点」への招待

ブラジリアン柔術(BJJ)という広大な海において、「マウントポジション」は一つの到達点であり、同時に最も荒れ狂う波の上の場所でもあります。競技ルールにおいて、このポジションには「4ポイント」という高い配点が与えられています。これは、パスガード(3ポイント)やニーオンベリー(2ポイント)、スイープ(2ポイント)を上回る評価であり、マウントが実戦においてどれほど決定的な優位性を持つかを示しています。相手の胴体に馬乗りになり、重力を味方につけ、打撃や関節技、絞め技を一方的に仕掛けることができるこの状態は、護身術の観点からも「究極のポジション」と称されます

しかし、白帯や青帯の柔術家にとって、マウントはしばしば「楽園」ではなく「試練」の場となります。「せっかくマウントを取ったのに、すぐにブリッジで返されてしまった」「相手が暴れてバランスが取れず、結局ガードに戻されてしまった」——こうした悩みは、初心者が必ず通る道です。マウントは静止した安定点ではなく、相手の激しい抵抗というエネルギーが渦巻く、非常に動的なポジションだからです。

本レポートは、専門的な用語や難解な理屈を極力排し、「濡れたタオル」や「サーフィン」といった親しみやすいアナロジー(比喩)を用いることで、マウントポジションの本質を解き明かすことを目的としています。技術的な手順(How-to)だけでなく、その背後にある力学(Why)、心理的な駆け引き、そして帯ごとの習熟プロセスまでを網羅し、初心者が自信を持って「頂点」に君臨するための羅針盤となるよう構成されています。


第1部:マウントの物理学と感覚 ——「重さ」と「バランス」の正体

マウントポジションを制するために最も重要なのは、筋力ではなく「感覚」です。特に「圧力(プレッシャー)」と「バランス」の二つは、車の両輪のように機能します。ここでは、達人たちが長年の研鑽の末にたどり着いた感覚を、誰もがイメージできる言葉で翻訳します。

1. 「濡れたタオル」の理論:理想的なプレッシャーとは

初心者が陥りやすい最大の間違いは、「相手を抑え込もう」として全身に力を入れてしまうことです。筋肉に力が入ると、体は硬い「固形物」になります。硬い物体は、支点を作れば簡単に転がすことができます。つまり、頑張れば頑張るほど、相手にとってあなたは「転がしやすい軽い物体」になってしまうのです。

これに対抗する概念が、「濡れたタオル(Wet Towel)」や「濡れた毛布(Wet Blanket)」のイメージです

デッドウェイト(死重)の魔法

水を含んでずっしりと重くなったタオルを想像してください。そのタオルを床に落とすと、床の凹凸に合わせて形を変え、ピタリと張り付きます。空気の入る隙間はなく、持ち上げようとしても指に絡みつくような重さを感じます。これが、マウントにおける理想的な体重のかけ方です。

  • 脱力の重要性: 自分の体重を相手に預けるためには、自分自身が力を抜く(脱力する)必要があります。自分の筋肉で体を支えてはいけません。骨格と重力に仕事をさせるのです。「死んだような重さ(Dead Weight)」こそが、相手にとって最も不快で重い圧力となります。
  • 隙間の排除: 相手と自分の間に隙間(スペース)があれば、相手はその空間を利用してエビ(腰をずらす動作)やフレーム(腕のつっぱり)を作ることができます。濡れたタオルのように、相手の胸やお腹の形に合わせて自分の体を溶け込ませ、摩擦力を最大化することで、相手の動きを封じ込めることができます。

イメージトレーニング:「溶岩」と「重い水」

トップ選手の中には、試合中に「自分の体が溶岩のようにドロドロになり、相手を飲み込んでいく」あるいは「重い水になって相手の肺を圧迫する」というイメージを持つ人もいます。目を閉じて、自分の体が液体になったような感覚を持つことは、無駄な力を抜き、重心を低く保つために極めて有効なメソッドです。

2. 「サーフィン」の理論:動的なバランス維持

マウントポジションを維持することは、暴れる波の上でサーフィンをするのに似ています。相手(波)は常に動き、あなた(サーファー)を振り落とそうとします。このとき、波の力に真っ向から対抗しようとすれば、バランスを崩して転覆してしまいます。重要なのは「同調」です。

4点支持のテーブル理論

マウントポジションの基本姿勢は、両手と両膝を床についた「4点支持」です。これをテーブルに例えてみましょう。テーブルは4本の脚があるから安定しています。もし相手が右斜め上にブリッジをしてきたら、それはテーブルをひっくり返そうとする力です。このとき、ひっくり返されそうになる方向(右斜め上)に、自分の手(脚)を遠くにつくことで、新しい支点を作りバランスを保ちます。これを「ポストする(Post)」と言います

  • 反応の速度: サーフィンでは、波の変化を予測し、瞬時に重心を移動させなければなりません。柔術も同様です。相手の腰が浮く気配を感じたら、すぐに重心を落とし、手をつく準備をする。この「アクション・リアクション」のループが、マウント維持の鍵です。
  • しがみつきの禁止: 多くの初心者は、怖さのあまり相手の首や体に強くしがみついてしまいます。しかし、これは自分の手(テーブルの脚)を縛ってしまう行為です。相手がブリッジをしたとき、手をつくことができず、相手と一緒に回転してしまいます。「手は床につくためにある」あるいは「バランスを取るために自由にさせておく」という意識改革が必要です。

第2部:マウントの構造 —— 3つの階層と使い分け

一口にマウントと言っても、状況に応じて高さや重心の位置を変える必要があります。これを理解していないと、「いつまでも攻められない」あるいは「すぐに逃げられる」という膠着状態に陥ります。マウントには主に3つの階層(バリエーション)が存在し、それぞれに役割があります

階層1:ロー・マウント(Low Mount)—— 守備と消耗の要塞

マウントを取った直後や、相手が激しく暴れているときに選択すべき、最も安定した形です。

  • ポジションの詳細:
    • 自分の腰を相手の腰の上に、あるいは少し低い位置に置きます。
    • 上半身は伏せ、胸と胸を合わせるか、相手の頭の近くに自分の頭を置きます。
  • 重要テクニック:グレープバイン(Grapevine):
    • 自分の足を伸ばし、相手の足の内側からフックをかけます(ブドウの蔓のように絡ませる)。
    • 足首で相手の足をロックし、自分の腰を床に押し付けるように伸ばします。
    • この動作により、相手はブリッジやエビに必要な「足の踏ん張り」を使えなくなります。
  • 目的: 相手のスタミナを削り、心を折ること。「まずはここから」という基本のステーションです。

階層2:ミドル・マウント(Middle Mount)—— 攻防の交差点

攻撃の準備をするための、標準的なマウントです。

  • ポジションの詳細:
    • 自分の膝が相手の脇腹あたりに来る位置です。
    • 足の裏を相手の太ももの下に差し込むか(フック)、足の甲を床につけてグリップします。
  • 重要テクニック:インビジブル・フット:
    • 足の裏を合わせて「合掌」するようにし、相手のお尻の下に潜り込ませる技術も有効です。これにより、相手が腰を上げようとしても、自分の足が邪魔をしてスペースを潰すことができます。
  • 目的: 相手の腕を攻撃するためのセットアップや、襟を掴んで絞め技を狙うための足場作り。

階層3:ハイ・マウント(High Mount)—— 必殺の圏内

フィニッシュ(極め技)を狙うための、攻撃特化型のポジションです。

  • ポジションの詳細:
    • 自分の膝を相手の脇の下まで滑り込ませ、相手の胸の上に乗るような形です。
    • 相手の両腕がバンザイをした状態、あるいは腕が自分の太ももの下にある状態を作ります。
  • リスクとリターン:
    • 重心が高くなるため、相手のブリッジによる影響を受けやすくなります(ひっくり返されやすくなる)。
    • しかし、腕十字や三角絞めといった強力な技へのアクセスは容易になります。
  • Sマウント(S-Mount)への進化:
    • ハイマウントからさらに体をひねり、アルファベットの「S」の字のように足を配置する高等技術です。
    • 片足は相手の肩口、もう片足は脇の下深くに入り、全体重を相手の胸郭一点に集中させます。この圧力は強烈で、それだけで相手がタップ(降参)することもあるほどです。

比較表:マウントのバリエーションと特性

バリエーション重心の位置安定性攻撃力推奨される状況
ロー・マウント腰(低い)非常に高い低い相手が元気な時、ポジション確保直後
ミドル・マウント腹部(中間)中程度中程度攻撃のセットアップ、相手の様子見
ハイ・マウント胸(高い)低い非常に高い相手が疲弊している時、フィニッシュ直前
Sマウント胸(一点集中)技術が必要最強腕十字や十字絞めへの最終移行形態

第3部:マウント維持の核心 —— 具体的なドリルとトラブルシューティング

知識として「バランスが大事」と分かっていても、体が動かなければ意味がありません。ここでは、マウント維持能力(リテンション)を高めるための具体的な身体操作と、よくあるトラブルへの対処法を解説します。

基本スキル:「泳ぐ(Swimming)」と「剥がす」

相手はマウントから逃げるために、あなたの膝を押したり、帯を掴んで持ち上げようとしたりします(フレームを作る)。これに対するカウンター技術が必要です。

  1. アーム・スイム(Arm Swim):
    • 相手があなたの胸や肩を押してきたとき、クロールや平泳ぎのように腕を回し、内側から相手の腕をこじ開けてマットにつきます。
    • これにより、相手の「押し返す力」を無効化し、再び胸を合わせる(密着する)ことができます。
  2. 膝抜きと再侵入:
    • 相手があなたの膝を押してハーフガードに戻そうとしてきた場合、一度膝を浮かせ、ワイパーのように足を動かして相手の腕をかわし、再び膝を脇の下に突き刺します。

対処法1:強力なブリッジ(ウパ)が来たとき

初心者が最も恐れるのが、相手の爆発的なブリッジです。

  • 対策:
    • ポスト: 相手がブリッジする方向へ、手や頭を遠くにつきます。
    • 腰を吸い付ける: ブリッジの頂点で相手が一瞬止まった時、自分の腰を相手の腰から離さないように意識します。
    • 脱力: 相手が持ち上げた瞬間、体を固めるのではなく、液体のように力を抜き、重力が自然に下へ落ちるのを待ちます。

対処法2:エビ(エルボーエスケープ)が来たとき

相手が肘と膝をくっつけて、あなたの足を挟もうとしてくる動きです。

  • 対策:
    • 頭のコントロール: 相手が右側にエビをしようとしたら、相手の頭を左側に押す、あるいは引くことで、背骨をねじらせます。背骨が曲がると力が出にくくなります。
    • リフティング: 相手の肘を、下からすくい上げるようにして開かせます(スパイダーウォーク)。脇が開けば、ハイマウントに移行するチャンスが生まれます。

独習ドリル:バランスボール・マウント

パートナーがいなくても、バランスボールを使ってマウントの感覚を養うことができます。

  1. バランスボールの上に馬乗りになります(足は床につけない)。
  2. 膝だけでボールを挟み、バランスを取ります。
  3. わざと体を前後左右に傾け、手をついて(ポストして)戻る練習を繰り返します。
  4. 慣れてきたら、目を閉じて行い、平衡感覚を研ぎ澄まします。

第4部:攻撃の解剖学 —— ハイ・パーセンテージ(高確率)な極め技

ポジションをキープできるようになったら、次はフィニッシュです。初心者におすすめなのは、複雑な動きを必要とせず、かつ黒帯レベルになっても通用する「基本にして奥義」の技です。

1. クロスチョーク(十字絞め):柔術の王道

道着を着ている場合、最も信頼性が高い技です。

  • メカニズム:
    • 自分の両手首の橈骨(親指側の硬い骨)で、相手の頸動脈を挟み込みます。
  • 成功のコツ:
    • 深く握る: 最初の片手(1本目の手)を、相手の襟の奥深くまで、首の後ろに届くくらい深く差し込みます。これが浅いと極まりません。
    • 頭を床につける: 2本目の手を入れたら、自分の頭を床につけます。これはバランスを保つためと、体重を乗せる支点を作るためです。
    • 肘を引く: 腕の力で絞めるのではなく、背中の筋肉を使って肘を自分の脇腹に引きつけるようにします。同時に、胸で相手をプレスします。

2. エゼキエルチョーク(袖車絞め):初心者の切り札

道着があってもなくても(ノーギでも手首を掴めば)使える万能技です。柔軟性がなくても強力な威力を発揮します

  • セットアップ:
    • 相手が首を守ろうと顎を引いている時や、クロスチョークが防がれた時に有効です。
  • 手順:
    1. 片腕(例:左腕)で相手の頭を枕のように抱えます。
    2. 左手の指4本を、自分の右腕の袖口(手首の内側)に入れます。
    3. 右手を相手の喉仏の前に通します(チョップするような形)。
    4. 両腕を伸ばし、袖を引く力と喉を圧迫する力を合わせます。
  • 注意点: 自分の手首や袖を掴む準備を、相手に気づかれないように行うことが重要です(ステルス性)。

3. アームバー(腕十字固め):ハイマウントからの華

  • メカニズム:
    • 相手の肘関節を支点にし、てこの原理で逆方向に曲げます。
  • セットアップ:
    • Sマウントから入るのが最も強力です。
    • 相手の胸に座るようにして体重をかけ、相手が苦し紛れに腕を伸ばした瞬間を捉えます。
  • 初心者のミスと修正:
    • ミス: 勢いよく後ろに倒れてしまい、相手に起き上がられる。
    • 修正: 相手の顔にかけた足を「枕」のように重くし、相手の頭をマットに固定します。そして、ゆっくりと、お尻を相手の肩に近づけたまま倒れます。

攻撃成功率の比較(初心者・中級者向け)

技名必要条件リスク推奨ベルトレベル備考
クロスチョーク道着(Gi)白帯〜グリップが深ければほぼ逃げられない
エゼキエル道着/ノーギ白帯〜体が硬い人でも使いやすい
アメリカナ道着/ノーギ白帯〜相手の腕力が強いと防がれやすい
腕十字道着/ノーギ青帯〜バランスを崩しやすいため練習が必要
三角絞め道着/ノーギ青帯〜足の長さや柔軟性が有利に働く

第5部:成長のロードマップ —— 帯ごとの課題と期待値

柔術の旅はマラソンのようなものです。焦る必要はありません。ここでは、各帯レベルにおいてマウントポジションで何を目指すべきか、その指標を示します

白帯(White Belt):サバイバルと基礎構築

  • テーマ: 「キープする勇気」
  • 現状: マウントを取ると興奮してしまい、すぐに攻めようとしてバランスを崩し、リバーサル(逆転)されることが多いです。
  • 目標:
    • 攻撃を一切せず、相手の上で「1分間マウントを維持する」こと。
    • ロー・マウントでの圧力のかけ方(濡れたタオル)を体得すること。
    • ブリッジされた時に、無意識に手をついてバランスを取れるようになること(反射神経の構築)。
  • アドバイス: 攻めなくていいのです。相手を疲れさせることが最大の攻撃だと思ってください。呼吸を整え、相手のパニックを観察しましょう。

青帯(Blue Belt):コンビネーションと実験

  • テーマ: 「罠を仕掛ける」
  • 現状: 基本的なキープはできるが、防御の堅い相手から一本を取るのに苦労します。
  • 目標:
    • 「二重の脅威(Double Attack)」を使う。例えば、クロスチョークを狙って相手が手を上げて防御したら、その隙にハイマウントに移行して腕十字を狙う、といった連携です。
    • ハイマウント、Sマウントへのスムーズな移行。
    • 相手の逃げ方(エビ、ブリッジ)を予測し、それを逆手にとってバックポジションを奪う技術。
  • アドバイス: 失敗を恐れず、様々な入り方を試してください。青帯は自分のスタイルを模索する「実験室」の時期です。

紫帯(Purple Belt):流動性と精密さ

  • テーマ: 「最小の力で最大の結果を」
  • 現状: 動きに無駄がなくなり、体重移動だけで相手を制圧できるようになります。
  • 目標:
    • 相手が動く前に、その動きを察知する「予知能力」のような感覚を磨く。
    • 下半身の微細なコントロールで、相手の片腕を孤立させる(殺す)技術。
    • どんな体勢からでもフィニッシュに持ち込める「必殺パターン」の確立。
  • アドバイス: 紫帯は「指導者」としての目線も持ち始める時期です。なぜその技がかかるのか、理屈を言語化できるようにしましょう。

第6部:歴史と進化 —— オールドスクール vs ニュースクール

マウントポジションの解釈も、時代とともに進化してきました。この背景を知ることで、柔術への理解がより深まります

オールドスクール(伝統派):圧殺の美学

カーウソン・グレイシー道場などに代表される、1980年代〜90年代のスタイルです。

  • 哲学: 「ポジション・ビフォア・サブミッション(技の前に位置取り)」。
  • 特徴:
    • とにかく重い。ロー・マウントで相手の顔を歪ませるほどの圧力をかけ、相手が精神的に参って腕を差し出すのを待ちます。
    • 基本技(クロスチョーク、アメリカナ)を徹底的に磨き上げ、力強く極めきります。
    • 護身術やバーリトゥード(何でもあり)の影響が強く、相手に打撃を打たせない距離感を重視します。
  • 現代への応用: 相手が非常に素早い場合や、スタミナがある若い選手を相手にする場合、このオールドスクールな「塩漬け(Stalling)」戦術は今でも極めて有効です。

ニュースクール(現代派):ジレンマと機動力

ジョン・ダナハーやゴードン・ライアンといった現代の理論家たちが提唱するスタイルです。

  • 哲学: 「相手にジレンマ(板挟み)を与える」。
  • 特徴:
    • マウントを「静止点」ではなく「通過点」として捉えることもあります。
    • 相手のエスケープを利用して足関節(レッグロック)に入ったり、バックテイクに移行したりと、動きが立体的です。
    • 腕を孤立させるプロセスが非常にシステマチックで、相手に「Aを守ればBが極まる」という二者択一を迫り続けます。
  • 初心者への示唆: いきなりニュースクールの真似をして飛び回ると、ベースがおろそかになりがちです。まずはオールドスクールの「重さ」を身につけ、その土台の上にニュースクールの「動き」を乗せるのが理想的な成長曲線です。

第7部:メンタルゲーム —— マウントにおける心理戦

技術だけでなく、心構えもマウントの質を左右します。

1. 「失うこと」への恐怖を捨てる

マウントを取った瞬間、多くの人は「絶対に逃がしたくない」と緊張します。しかし、この恐怖心が体を硬くし、皮肉にも逃げられる原因となります。

「逃げられてもいい。またガードからやり直せばいい」と開き直ることで、体から無駄な力が抜け、結果的にキープ力が上がります。

2. 相手のパニックを利用する(クッキング)

マウントを取られた相手は、呼吸が苦しく、パニックに陥りやすい状態です。ここで焦って攻める必要はありません。相手の上でじっとしているだけで、相手は勝手に暴れ、体力を消耗してくれます。これを「相手を料理する(Cooking)」と呼びます。

相手が疲れ果て、動きが止まった時こそ、安全かつ確実に技を仕掛ける最高のタイミングです。

3. 呼吸のコントロール

自分の呼吸は、相手に伝わります。あなたがハァハァと息を荒げていれば、相手は「こいつも疲れている」と勇気づけられます。逆に、鼻呼吸で静かに、深く呼吸していれば、相手は底知れぬプレッシャーを感じます。マウント中は、意識的に深呼吸を行い、心拍数を落ち着かせましょう


結論:マットの上で対話を楽しもう

マウントポジションの習得は、一朝一夕にはいきません。最初は「濡れたタオル」どころか「乾いた板」のように感じられるかもしれませんし、「サーフィン」をするつもりがすぐに溺れてしまうことでしょう。しかし、それは誰もが経験する正常なプロセスです。

重要なのは、毎回の練習で小さなテーマを持つことです。「今日は絶対にブリッジで返されないように手をつく」「今日はクロスチョークのグリップを深くすることだけを考える」といった具体的な目標設定が、成長を加速させます。

このレポートで紹介した知識は、あくまで地図に過ぎません。実際にその道を歩くのはあなた自身です。道場のマットの上で、パートナーと体を通じた対話を楽しみながら、自分だけの「絶対的なマウント」を作り上げてください。焦らず、力を抜き、波に乗るように。その先には、柔術の新しい景色が待っています。

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