
ブラジリアン柔術(BJJ)において、「クローズドガード(Closed Guard)」ほど奥が深く、そして強力なポジションはない。
白帯で最初に習う基本中の基本でありながら、世界王者ロジャー・グレイシーや、新世代の怪物ミカ・ガウヴァオンといったトップ選手たちが、黒帯の試合でも「必殺の武器」として使い続けている。なぜなら、クローズドガードは単なる防御姿勢ではなく、「相手をコントロールし、自分を守り、フィニッシュするための最強の罠」だからだ。
この記事では、クローズドガードの基本から、人体の構造を利用した崩しのテクニック、そして実戦で極めるためのロードマップまでを徹底解説する。これを読めば、明日からのスパーリング景色が変わるはず。
1. クローズドガードとは?:最強の「拘束装置」
基本形とメカニズム
クローズドガードとは、下(ボトム)の選手が上(トップ)の選手の胴体に両脚を巻き付け、足首を組んで「閉じた」状態のこと。
この「閉じる」という動作が最大のポイントだ。オープンガードやハーフガードが「相手を押し返す」動きなのに対し、クローズドガードは「相手を閉じ込める」動きだ。脚の力を使って相手の腰(ヒップ)をロックし、前後左右への逃げ道を物理的に塞いでしまう。これこそが、少ない力で相手をコントロールできる理由である。
なぜ今、クローズドガードなのか?
一時期は「モダン柔術」の流行で古臭いと言われたこともあったが、今またその価値が見直されている。ロジャー・グレイシーが証明したように、正しく使えば「パスガードされるリスクを最小限に抑えつつ、一本を狙える」からだ。さらに近年では、アームドラッグやバックテイクを積極的に狙う攻撃的なスタイルも進化している。
2. 戦略的メリット・デメリット
このポジションを使うべきタイミングと、気をつけるべきリスクを整理しよう。
【メリット】ここが最強!
- 鉄壁の移動制限 脚を閉じている限り、相手はサイドやマウントに移動できない。相手が攻めるには、まずこの「鍵」を壊す(ガードブレイクする)必要があり、そこに多大なスタミナを使わせることができる。
- 姿勢を崩しやすい 両脚で相手の腰を引きつけ、両手で襟や袖を引くことで、相手の背骨を強制的に曲げさせることができる。姿勢が崩れた相手は、力を出せず防戦一方になる。
- 豊富なフィニッシュ手段 腕十字、三角絞め、十字絞めといった「決定率の高い技」を、安全圏から狙い撃ちにできる。
【デメリット】ここのリスクに注意
- 膠着しやすい ガッチリ守れる反面、自分からも動き出さないと試合が止まってしまう。「動かない人」と思われてレフェリーからペナルティをもらうリスクもある。
- スラム(叩きつけ)の危険 相手に持ち上げられると、そのままマットに叩きつけられる危険がある(特にMMAや護身術)。相手が立ち上がろうとしたら、すぐに技術的な対処が必要だ。
3. 「割られない・攻めさせる」鉄壁の構造力学
ただ脚を組んでしがみつくだけでは、すぐに割られてしまう。上手い人のクローズドガードには「理屈」がある。
3.1 脚を組む位置を変える(ギアチェンジ)
状況に合わせて、脚を組む高さを使い分けるのがコツだ。
- ローギア(腰骨): 休憩用。相手の腰をコントロールするが、攻め手は少ない。
- ミドルギア(肋骨): 通常時。ここから崩しを狙う。
- ハイギア(脇の下・肩): 攻撃モード! 足を相手の背中の上部や肩まで登らせる(トップロック)。ここまで来れば、相手は姿勢を直せず、腕十字や三角絞めは目前だ。
習得のコツ 脚を組むときは、ただ足首をフックするだけでなく、膝を内側に絞る(太ももで相手を挟む)意識を持とう。これで相手の肋骨を圧迫し、ジワジワとスタミナを削ることができる。
3.2 ポスチャーブレイク(姿勢崩し)の極意
クローズドガードからの攻撃は、全て「相手の姿勢を崩す」ことから始まる。背筋がピンと伸びた相手には技は掛からない。
- ニー・プル(膝の引き寄せ): 手だけで引こうとしないこと。自分の膝を胸に引き寄せる腹筋と脚力を使って、相手を前につんのめらせる。
- 頭を下げる: 襟や首裏を掴んで、相手の頭を強制的に下げる。頭が下がれば、背中の力は半減する。
4. 必修!決定率の高いサブミッション(極め技)
これだけは絶対に覚えておきたい、クローズドガードからの「必殺技」たち。
4.1 腕ひしぎ十字固め(Armbar)
基本にして奥義。最近ではミカ・ガウヴァオンのように、相手の腕を抱え込んでから仕掛けるスタイルも強力だ。
- ポイント: 相手の腕を自分の体の中心線より深く流す(ドラッグする)。そして、相手の背中を登るようにして角度を作り、自分の頭と相手の脚を近づけるイメージで回転する。
4.2 三角絞め(Triangle Choke)
脚力に自信があるなら最強の武器。スイープとの連携もしやすい。
- ポイント: **「アングル(角度)」が命。正面から組んでも極まらない。相手の自由な腕の方へ自分の頭を移動させ、「相手の耳の穴を覗き込む」**ような角度を作ると、驚くほど深く入る。
4.3 クロスカラーチョーク(十字絞め)
「柔術の神様」ロジャー・グレイシーの代名詞。正しく入れば数秒で落ちる。
- ポイント: 1手目の襟を掴む手が全て。相手の首の後ろのタグ(襟足)に触れるくらい深く入れること。そして腕力で絞めるのではなく、自分の身体ごと引く力を使って絞める。

【クローズドガードからのスイープ5選】
5. 攻守逆転!スイープ(返し技)
極め技を警戒して相手が動いた時こそ、スイープのチャンスだ。
5.1 シザースイープ(Scissor Sweep)
「ハサミ」のように脚を使って相手を転がす基本技。
- 仕掛け時: 相手が体重を前にかけてきた時。
- コツ: 上の脚(脛)を相手の胸に当てて「壁」を作る。これが弱いと潰される。下の脚で相手の膝を払いながら、上の脚で押し込む。
5.2 ヒップスロー(Hip Bump Sweep)
相手が姿勢良く座っている時の特効薬。
- 仕掛け時: 相手が後ろ重心で姿勢が良い時。
- コツ: ガードを解いて、勢いよく上体を起こす(起き上がりこぼしのように)。自分の腰を相手の胸にぶつけるイメージで。
5.3 フラワースイープ(Flower Sweep)
脚の遠心力を使って、優雅かつ豪快に投げる。
- 仕掛け時: 相手の片袖と、同側のズボンを掴めた時。
- コツ: 自分の頭を相手の脇の下に入れるように回転し、フリーな脚を大きく振って遠心力を生む。
6. 勝つための「コンビネーション」
単発の技は防がれる。技を繋げることで、相手を「詰み」に追い込む。
黄金のトライアングル(The Trilemma)
以下の3つはセットで覚えよう。どれか一つを防げば、別のが決まる。
- 腕十字を狙う → 相手が腕を抜く。
- 抜けたスペースで三角絞めを狙う → 相手が頭を上げる。
- 相手の肩を抑えてオモプラータへ移行。
スイープからの連携
- ヒップスロー → ギロチンチョーク: ヒップスローで飛びついた時、相手が強く押し返してきたら、そのまま首を抱えてギロチンへ。
- シザースイープ → 三角絞め: シザースイープで相手がバランスを崩して手をついたら、その腕と首の隙間へ三角絞めをセット。
7. レベル別習得ロードマップ
白帯:まずは「生き残る」
目標: ガードを簡単に割られないこと。
- 常に相手の姿勢を崩す意識を持つ(ニー・プル)。
- 襟や袖を掴まれたら、嫌がってすぐに切る(グリップブレイク)。
- 基本の腕十字、三角絞め、シザースイープの形を覚える。
- アドバイス: 無理に攻めてガードが開いた瞬間にパスされるのが一番多いパターン。「まずは割らせない」ことから始めよう。
青帯:自分の「型」を作る
目標: スイープとサブミッションを連携させる。
- 「AがダメならB」という得意な連携を持つ(例:ヒップスロー→キムラ)。
- ガードが割られそうになっても、腰を引いて戻せる(リテンション)。
- 相手が立ってきた時の対策(デラヒーバなどへの移行)ができる。
- アドバイス: 「自分はこの技が得意だ」という勝ちパターンを一つ確立しよう。
紫帯以上:相手を「罠」にかける
目標: 相手のアクションを誘導する。
- わざとパスガードの隙を見せて、誘い込んでカウンターを合わせる。
- アームドラッグなどを使い、正面だけでなく背後(バック)も狙う。
8. 一人で強くなる!ソロドリル
道場に行けない日も、自宅でこの動きをしておくだけでガードが強くなる。
- ヒップエスケープ(エビ): ただ下がるのではなく、その場で腰を切って「角度を作る」エビを練習する。
- レッグサークル(脚回し): 仰向けで脚を大きく回す。股関節を柔らかくし、相手の腕をかわして足を絡める動きを養う。
- ブリッジ&リーチ: ヒップスローの動き。仰向けから爆発的に腰を上げ、斜め後ろに腕を伸ばす。
9. よくある悩み(Q&A)
Q. 相手の力が強くて姿勢が崩せません。
A. 「引く」のではなく「自分の膝をハグする」イメージで。 腕力だけで相手の背筋には勝てません。自分の膝を胸に抱え込むような、腹筋と脚全体の力を使ってください。また、一度わざと押して、相手が押し返してくる反動を利用するのも有効です。
Q. 技をかけようと脚を開くとパスされます。
A. 「命綱」を作ってから脚を開きましょう。 何の手がかりもなく脚を開くのは危険です。必ず相手の袖や襟をしっかり掴み(コントロール)、片足を相手の腰骨に置くなどして「壁」を作ってから、初めてガードを開きます。
まとめ:クローズドガードは「終わりのない旅」
クローズドガードは、柔術の基本でありながら、極めれば世界王者すら封じ込めることができる奥深いポジションです。
ロジャー・グレイシーは言いました。「私の柔術は基本だけだ。だが、その基本を極限まで磨き上げているから誰も防げない」。
派手な技に目が行きがちですが、まずは「相手をしっかり挟む」「姿勢を崩す」「連携する」という基本を大切にしてください。何度も失敗し、修正していくプロセスこそが柔術の楽しさです。さあ、次の練習で早速試してみましょう!、あなただけの鉄壁の要塞を築き上げてください。



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